MOLT  ›  特集  ›  FEATURE 02 — BODY LANGUAGE
REPORT

言葉が通じない市場で、値切ってみた。

武器は指と眉毛と電卓だけ。マラケシュの土曜市場で、日本語も英語も1語も使わずに交渉した20分の記録。

TEXT: MOLT編集部・K ILLUSTRATION: 線画置き場 ◷ 読了 約4分 2026.07.11
?! 300→150 final price: smile
交渉のテーブル(絨毯)。電卓の数字と、眉毛の角度だけで会話は進む。

服の袖を引かれ、眉毛を上げられ、指を3本立てられた。結論から言うと、交渉は成立した。日本語も英語も、1語も使っていない。舞台はマラケシュの土曜市場。記者の武器は、指と眉毛と電卓だけである。

01

名演対名演

おばちゃんが電卓に「300」と打つ。記者が「150」と打ち返すと、おばちゃんは天を仰ぎ、心臓を押さえた。名演である。こちらも胸を押さえ返した。観客(近所の子ども)が笑った。交渉とは、つまり即興演劇なのだった。

20分の攻防で使った語彙は、ゼロ。使った表情筋は、たぶん全部。日本のオフィスで一日中しゃべっても、顔はこんなに動かない。

言葉が完璧じゃないから、ぜんぶ伝えようとする。
02

相手の顔を、初めてちゃんと見た

気づいたことがある。日本では、話が通じるせいで、相手の顔をほとんど見ていなかった。ここでは表情筋だけが辞書だ。20分の交渉で、記者はおばちゃんの機嫌の全パターンを覚えた。会社の同僚より詳しくなってしまった。言葉が通じない場所では、観察力と身体の感覚が研ぎ澄まされていく。これは間違いなく、脱げる。

03

で、いくらだったのか

200。たぶん相場より高い。でも帰り際、おばちゃんはミントを一束、袋に押し込んでくれた。あれは言葉より雄弁な「また来な」だった。記者は翌週も行った。2回目からは、もう常連の顔をされた。

NOTE — 非言語交渉の三種の神器①電卓(数字は世界共通語)②眉毛(感情の見出し)③引き際の笑顔(次回への布石)。値切り額より、やりとりの時間のほうが持ち帰る価値がある。
— fin —
MOLT編集部・KTOEICの点数を旅先で一度も使えたことがない。代わりに表情筋が鍛えられ続けている。
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